YAMAHA MT-09 tracer / Japan
What's about MT-09 tracer
 TDM900は10年10万キロが目標だったはずなんだけど、これの国内販売が発表されてモノは試しとばかりにTDM900売却を呟いたら即答で買われてしまったので、tracer導入が決定しちゃったという。これも6年4万キロくらいが目標。
 
○MT-09 tracerとは
 先行発売されたMT-09がベースとよく勘違いされるんですが、実は開発自体はこちらが先行して行われていたという車種です。TDM900の後継となるような構成、スタイリングでリリースされています。2013年に欧州、2014年に日本国内で販売開始されたMT-09はMT-09 tracerをベースしています。ヤマハは2013年からマルチプラットフォームというモデル構成をとっており、要するに基本となる車種をベースに色々な車種展開をするってのです。四輪ではこういう開発手法は普通ですが、二輪ではBMWなんかこういう手法で車種展開しています。最近の日本車では販売モデル数自体を削減しているのもあってこういう車種展開は少なかったのですが、ヤマハはトリッカーをベースにXT250セローとXT250Xを作ったりしています。
 
 MT-09と兄弟車とはいうものの相違点は結構広範囲に渡っています。TT250RとTT250R Raidがどちらも機種コードが4GYで同じの枝番違いだったのですが、MT-09とMT-09 tracerでは機種コードが違います。ヤマハの場合、機種コードの違いは国土交通省届出の型式が別物であることを意味しています。ちなみに機種コードですが、無印のABSなしが1RC、無印ABS付きが2DR、逆車tracerが2PP、国内tracerが2SCで、2015年モデルのtracerは2SC8です。無印とtracerでキャスター角が違うのでおそらくメインのフレームも微妙に構造が違うものと推察されます。
 
○初期型無印MT-09と初期型MT-09 tracerの大まかな差異
  • ノーマルモードのECUマッピング変更(AモードとBモードは変更無し)。
  • トラクションコントロールとABSが標準装備(MT-09にはTCSの設定無し)
  • タンク容量が14Lから18Lに増加
  • ハンドルスイッチ類がMT-09から変更になってセルスイッチも扱いやすくなった
  • メーターがXT1200Zと同じ大型のモノになり視認性と表示内容がさらに無駄に増えた
  • 重量増とロングラン対応でTDM900のように硬めのセッティングに大幅に変更された足回り
  • フロントはキャスター角が寝たことによりフレームそのものもたぶん別モノに変わってるはず
  • 荷物のクソ積載+タンデムを考慮にしたクソ頑丈なシートフレームと分割シート
  • ハンドルブラケットが別モノでポジション調整可能(三又とブリッジは共通)
  • センタースタンドが標準装備(MT-09無印にもたぶん装備可能と思われ)
  • ブレーキペダルとサイドスタンドがアルミの鋳物から鉄に変更
 MT-09 tracerの乾燥190kg/装備重量210kgというのはTDM900を強く意識していると思います。詳細は割愛しますが、TDM900が出た当初に欧州で酷評されたのが鉄からアルミにフレームが変わり20s軽量化されたことでした。チーム・過積載上等の現地では軽量化とアルミ化による耐久性への不安が大きかったのです。tracerはヤマハもずいぶんTDM900を意識して作っているようなので、その辺のスペックはTDMに合わせたんじゃないかな〜と思いました。実際に乗ってみて「間違いなくこいつはTDMの正常進化車だ」と確信できました。
 
管理人のMT-09 tracer (2018年01月時点での仕様)

 
主なスペック
機種コード 2SC8
全長/全幅/全高 2,160/950/1,345mm
発動機種類 水冷4サイクル並列3気筒3バルブDOHC
排気量/径/行程 897cc/78.0×59.0mm
最大出力 110ps/9,000rpm
最大トルク 9.0kg-m/8,500rpm
タンク容量 18ットル
主な変更点
特記事項なし
 
使用タイヤ
前:MICHELIN PolotRoad2 120/70ZR17
後:MICHELIN PolotRoad2 180/55ZR17
追加装備
純正キャリアキット+モノキーベースM3(常備:MAXIA E52青)
Krauser K2 ウィングラック+30Lパニア
JRC製分離型ETC車載装置
  
変更設定
KYB MT-09用SPLフロントサスペンション
KYB MT-09用SPLリアサスペンション
インプレッション
○エンジン関係
 エンジンにはSTDモード、Aモード、Bモードと3種類の制御モードがあり、STDがエンジンレスポンスと出力特性、燃費のバランスを取ったオールマイティ仕様、Aモードがイケイケ飛ばしまくり仕様、Bモードがエコラン+レスポンス鈍化仕様です。

 エンジンそのもののフィーリングですが、4気筒ほどの低速の粘りはないものの、TDM850/900と比べて驚くほど低速が粘り、かつ実用域の2000〜4000rpmあたりはスムースで大人しい感じです。一方で4500rpmを超えたあたりから一気にガサツでパワフルになりぶっ飛んでいきます。どのモードを選んでいても4500rpm以上ブチ回せばモード関係なくアホみたいなパワーを発揮します。

 各モードの差異が最も出るのは実用回転域での走行です。STDモードはそこそこ鋭い加速を示しますが、アクセルをパーシャルに戻すと一気に燃料カットが入ります。ただし、そこからわずかにアクセルオンすると燃料がしっかり噴射されて加速が戻ってきます。Aモードはアクセルオフの後の燃料カットが少なく、オン・オフの切り替えでの燃料噴射カットによるレスポンス低下を極力避けています。多用して走るとテメーはTZRかってくらい燃料を食い散らかしますが、昔のFZR1000やYZF1000Rより圧倒的にいい加速を発揮します。Bモードはほぼ完全にエコランモードと考えていいと思います。高速道路などで巡航状態にはいった途端にリーンバーンになります。また、そこから再加速しようと思ってもアクセルの反応もずいぶんどんくさいように作られていますので、ギアをいくつか落として半クラ使わないとちょっと大変です。ただしコンフォートさと燃費は抜群です。

 MT-09無印との相違点は2箇所。
 1つはSTDモードとBモードのマッピングが見直されてtracer専用に初期がおとなしいものに変わったという点です。これは実際に2機を乗り比べると顕著で、tracerは出足〜3000rpmくらいまで1/4開度くらいまでがかなりおとなしいセッティングになってて、正直かったるい程に毒抜きされています。ある程度開けると当然イケイケになりますが開け始めは本当にマイルドになりました。Aモードのマッピングは無印とまったく同じだそうです。パイロン遊びでBモードだと扱いやすす過ぎて練習にならないくらいマイルドで低速が粘りますし、Aモードだと起動加速でちょっとだけ開けたつもりなのにガンガン加速していきます。最初のうちは基本STDで気合入れる時だけA、Uターンとかちょこまか動きのときはBと使い分けていましたが、500q超えたあたりからは基本Aで走って必要に応じて初期加速にリミットをつけたい時にSTDやBに切り替えるようにしています。
 
 2つ目の変更点のトラクションコントロールの追加です。実際に峠をそこそこのペースで走っていて何度かこいつに助けられています。テールが流れたときにアクセルオンのまま荷重移動とかとかで何とか乗り切れたとか、砂利を踏んで滑った後に立て直すときにハイサイドにならずに済んだとか、そういう面でトラクションコントロールはかなり役立っています。ABSと合わせてかなりのサポートを発揮しています。

 ミッションに関してです。基本的にかなりガサツでシフトタッチもかなり悪いです。10v系エンジンより酷いんじゃないかなあ。特に1速から2速に入れる時にグシャっという感じで中途半端に入るのが本当に気色悪くて、ここは最大の欠点だと思っています。ギア比についてですが、高速道路などの巡航はヤマハ伝統のトップギア3000rpmで80q/hです。実際に走らせると大体90〜100qが快適に走れる回転数域なので、この辺はTDM900とも同じ特性だと思います。エンジンが元気になる回転数にまで上がると振動が凄く増えます。
  
○足回り・ハンドリング
 14モデルの無印MT-09とくらべ、重量増と走りのキャラクタライズの関係で随分硬めにセッティングされてきました。イニシャルの硬さはTDM900に近い硬さに変貌していますが、基本的なMT-09の走りの特徴や懐の深さはそのまま残っています。例えば、峠でちょっとオーバースピード気味に突っ込んでしまってヒヤリとしたときも、慌てずに一瞬のアクセルOFFとリアブレーキによる速度制御で帳尻を合わせて曲がったりができます。TDM900の感覚で回ろうとすると車体1台分内側を回りそうになるくらいのハンドリングを見せます。14年型MT-09無印と違って一般的なロードバイクに近い硬めの足回りを与えられていますので、無印にあったような乗り手を選ぶ挙動という面はかなり抑えられています。
 
 ハンドリングのよさや小回り性能の高さは8の字を回っても明確で、10回くら回るとそのまますぐ普通にSTDモードでも8の字が回れるほどのハンドリングで、後述のエンジン特性の変更も含めて14年型MT-09から随分変貌した印象です。ワインディングなどでは寝かせてからアクセルオンでぐるっと一気に回り込むヤマハらしいハンドリングなのですが、そのアクセルオンでの旋回性能が桁違いに良くなっています。基本的に今までのTDMシリーズと違って荷重が前後均等化されていますので、ヘタにリアステアで後ろ乗りをするとアンダーステアになります。なるべくシートの中心に座り、左右の乗り換えと上体の前後移動で荷重を動かして乗るオートバイのようです。
 
 ブレーキはラジアルマウントのMOSですが、どうも白MOSなのにピストンは鉄の可能性が微レ存。ばらしてないのですが部品番号からはそうと考えられますので、掃除をこまめにやってピストンのサビを防ぐしかなさそうです。ABS付きだから初期の握りこみがふわふわなのかと思ったのですが、僅かに甘い程度で、むしろ結構良く効くほうだと思います。フロントよりリアのタッチの甘さのほうが気になりますね。ABSは普通に走っててもまれに動作します。例えばちょっと強めに減速しながらギャップを超えたときの一瞬のホイールロックを捉えて動作したりします。しかし、普通に走っていて気になるかどうかというと、動作して初めて気づくレベルで違和感はありません。TCSに関しては雨の中で峠をいきなり走らざるを得ませんでしたが、OFFにして走ってもONにして走っても動作した気配がまったくないので、車体のグリップ性能の高さがずば抜けてる感じです。
 
 ちなみにバンク中に路面の大きなうねりを拾った場合、真っ先に路面とヒットするのがセンタースタンドってのはどういうことよ……。
 
○車体関係
 シート高はほぼTDM900と同等で、シートの硬さも同等です。この辺は間違いなくTDM900を猛烈に意識しています。座面がTDMと違ってフラットに近くなり、前後左右の移動がかなり楽になったのですが、現状で「どう座って峠を攻めればいいのかわからない」状況。ロングランはまだやってないのではっきりとは言えませんが、100qほど走ってみた段階では疲れにくいシートです。

 カウリングは凄く有効です。また、スクリーンに関してもノーマルスクリーンで高さを一番上まで上げるとシールドの上半分に風が当たるようになります。が、ノーマルの形状だと風が顔をモロに直撃する仕様なので、高さはともかく形状が違うスクリーンが欲しいところです。これはGIVI、MRA、Puigあたりの製品待ちです。

 リア周りのサブフレームは積載を考慮したデザインに変更になっており、パニアやトップケースを取り付けるためのねじ類は最初から露出しています。TDM900やFZ-1だとこの辺はシートカウルやリアフェンダーの穴あけ加工が必須になった場所ですから大きな進歩です。積載についてはノーマル状態ではリアシートに積む以外手はありません。デザイン的には純正キャリアキットを搭載してバイクとしてしっかりまとまるような感じなので、出来れば純正キャリアキットか社外トップケースステーを装着するほうが、色々楽でいいと思います。標準で装備されている荷掛けフックはFJRやTDMと同じ純正パニアを取り付けるラッチも兼ねています。

 ハンドル周りについては標準の取り付け角度がエラく手前に引いた状態になっているので、ある程度身長がある人は最低30度は起こしたほうがよさそうですが、それをやるにはスイッチ類の向きの問題が発生するのでハンドル交換かハンドル加工が必須にもなりそうです。ハンドルとシートの距離や高さの関係はTT250R Raidとほぼ同じ感じなので、その辺の経験がある人はオフ車寄りにセッティングするほうが絶対乗りやすいと思います。ブラッシュガードは高速道路で手に風が当たらない以外は全く役に立ちませんし、無駄に横幅が広くなるのですり抜けもそうですが、狭い場所での入庫などあらゆる場面で邪魔になります。ブラッシュガードはクソの訳にも立たないことが早くも判明したので早々に撤去決定です。

 ハンドルの前後の位置をずらす機能についてですが、説明書には一切書かれていませんが、ハンドルライザーの向きを前後入れ替えることで10mmずらすことができます。出荷状態では手前に設定されています。また、法令の問題でヤバいとされていたEUオプションの15o以上ハンドル位置を変えられるライザーですが、これもモトコが引っ張ってくれるようになっています。
 
○電装その他
 今回最大の目玉のLEDライトは可もなく不可もなく、です。正面に回ってみてもLoなら対向車が全然まぶしくない設計になってるのはスゴいの一言。社外のHIDやLIDってハロゲン用灯体に入れるとやっぱり不都合がでるもんですが、今回のtracerのは専用灯体なので、配光もばっちりです。ただし圧倒的な光の物理量がハロゲンよりは少ないせいか、フィリップスのバルブに変えた後のTDM900より若干くらい感じ。やたらと遠くまでビームは届いてるけど白すぎて見えづらい感じというほうが正解かも。もうちょっと黄色いバルブでもよかった気がします。なお、ロービームは明るくハイビームがビミョーというのはLED化したTT250R Raidでも実感しているので、ハイビームがビミョーなのはLEDライトの欠点かもですね。

 メーターはXT1200Zで採用されたモノをベースにファームが新しく起こされたモノで、コントロールはメーター以外に左スイッチも組み合わせて行います。メーターに設置されたスイッチでの操作はトリップのリセットとトラコンのON/OFFくらいで、メニューの切り替えや表示内容の変更には左スイッチに設置されてるレバーを操作しないと無理。オプションのグリップヒーターもメーター内の表示でコントロール可能とのことです。メーターの表示内容に平均燃費と瞬間燃費を表示する機能があるんですが、どっちもかなり盛りまくりの数字を表示するので、まったくアテになりません。

 左右のスイッチ類は無印MT-09で酷評されたモノから扱いやすいモノに変更されています。右スイッチではセルスイッチとモードセレクターの操作性がよくなり、左スイッチではホーンとウィンカーが従来車種と同じ位置に戻りました。無印の左スイッチはウィンカーを押そうとしてホーンを鳴らす例が多いですからね。

 バッテリーは前シート下です。バルブがLEDなせいか容量が9というやたら小さいバッテリーが入っているんですが、バッテリーケース自体は12か14が入る大きさで作られており、スキマにスポンジが入っています。たぶんですが、電装を追加した時に容量不足するときに大きなバッテリーを搭載できるようにしてあるんだと思います。

 MT-09無印でも多発しているトラブルですが、御多分に漏れず2015年型のMT-09 tracerにもカムチェーンテンショナーの不具合が出ます。運悪く?運よく?私の個体が該当個体でした。
(C)1998/2008/2016 Takayuki Kazahaya